<金口木舌>記者への脅し、標的の五感


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 十数年前、「警告」と記された書面がファクスで届いた。当時、ガーゼを体内に残したまま縫合した医療事故を取材していた。取材を申し込むと、病院側の弁護士が書面を送り、電話をかけてきた

▼「和解が成立した。第三者に口外しない約束だ」。強い口調だったが、取材する側まで縛り付ける理由にはならない。情報源ではないが、被害者側も納得して取材に応じた。書面には記者を名指しし名誉毀損(きそん)、賠償請求といった脅しのような文言が並んだ
▼再発防止を願い、この被害者側のように取材に応じる人もいれば、そっとしてほしいと取材を望まない人もいる。事件事故の被害者には最大限の配慮が当然必要だ
▼近年、国民の知る権利を支える「表現の自由」を揺るがす事態が相次ぐ。政治家や行政、企業が力に物を言わせて訴訟を起こし、従わない相手の表現活動を萎縮させる。スラップ訴訟と呼ばれる口封じだ
▼改正小型無人機ドローン規制法が6月に施行され、米軍基地などの上空飛行を原則禁止した。本紙も小型無人機で撮影し米軍の実態を取材する。次は目隠しか。為政者は民の五感を奪いたいようだ
▼前述の医療事故は記事になった。後日、書面を送り付けた弁護士と裁判所前ですれ違った。「まだいるの」と嫌みを言われ、やりとりは終わった。あすから新聞週間。知る権利に応える役割を改めてかみしめる。