<金口木舌>サザエさんとローマ教皇


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 「サザエさん」の作者、長谷川町子さんは旅行好きだったようだ。各地の旅行記をつづった「サザエさん旅あるき」という楽しい連載もある。ちなみに主人公はサザエさんではなく長谷川さん

▼海外へも出掛けた。1966年には復活祭に合わせてバチカンを訪れている。ローマ教皇パウロ六世に謁見(えっけん)し、握手を交わした。朝日新聞に寄せた旅行記で「出来たてのパン」のように柔らかな手だったと記している
▼漫画家の観察眼は教皇の表情に疲労を見た。「世界の悩みを背負われた重荷に、ダークブルーのヒトミには疲れの色がありありとみえていました」と旅行記を締めくくっている。その重荷とは何だったのだろう
▼フランシスコがローマ教皇として38年ぶりに来日し、広島、長崎での演説で核廃絶へ向けた強いメッセージを発した。「傷の痛みに叫ぶ兄弟の声に耳をふさいでよい人はどこにもいません」とも語り掛けた
▼被爆国日本は教皇の言葉を正面から受け止めきれるだろうか。安全保障の負担を一地域に押しつけて恥じぬ政権には、何も期待できないのかもしれない。教皇がもし沖縄を訪れたなら、いかなるメッセージを発したか、想像する
▼長谷川さんもまた戦争体験者であった。艦載機の機銃掃射に追われ、空襲警報に慌てた。愉快なサザエさん一家を長年描きながら、平和を祈っていたのかもしれない。