<金口木舌>ミイラが現代に問い掛けること


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 古代エジプトでは、人の死後も魂は生きていて肉体に戻ってくると信じられていた。だから遺体を保存しておくためミイラづくりの技術が発達した

▼ミイラと言えばエジプトの印象が強いが、南米のインカ帝国時代のものなど世界各地にあるそうだ。東京・上野の国立科学博物館で開かれている「ミイラ展」では欧州や南北アメリカ、オセアニアからのミイラ43体と対面できる
▼彼、彼女らは生前、どんな人生を過ごしたのかと想像する。展示では学術展示の意義を強調し「ミイラは過去に生きていた人の遺体であり、彼らの尊厳は尊重されなければならない」と記した。見せ物志向への批判を意識したか
▼戦争や盗掘などで文化財が持ち出され、元あった国から返還を求める動きもある。昨年、アフリカ・ベナンからの請求にマクロン仏大統領はパリの美術館にある文化財の返還に同意した。他国の文化財の在り方にも議論が広がるかもしれない
▼昭和の初期に旧帝国大学の人類学者が今帰仁村の百按司(むむじゃな)墓から琉球人の遺骨を持ち出した。現在は京都大に保管されているが、沖縄側からの返還要求には応じず、訴訟に発展している
▼日本人類学会は遺骨の保存継承を京大に要望した。これまでの研究でどんな知見が明らかになり、沖縄側に還元されたのか。故人の尊厳を上回る学術研究の意義なんて、あるとは思えないが。