<金口木舌>国破れ言葉あり


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 動乱で国がなくなっても自然は変わらない。中国盛唐の時代、杜甫は「国破れて山河あり」と詠んだ。引用した松尾芭蕉は「夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」と続けて詠み、人間の無秩序、自然の秩序を対比させた

▼芭蕉に触れた日本文学研究者ドナルド・キーン氏の見解は踏み込む。「時で山は崩れ、川も流れが変わる。しかし、人の言葉は残る。古代エジプトやギリシャの言葉も残っている。山よりも川よりも強いと思えると芭蕉から感じた」
▼キーン氏は米軍語学士官として沖縄戦などに従軍した。「家族に届けてほしい」と一部英語で書かれた日本兵の日記を戦場で読み、戦争の愚かさを痛感した。東日本大震災後に日本国籍を取得した晩年、日本の平和主義が脅かされていると危惧した
▼キーン氏が96歳で亡くなった1年前のきょう、新基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票があった。反対が有効投票の72・15%に達した。移設中止を求め同時期に募ったホワイトハウスへの請願署名も21万筆を超えた
▼県民投票の翌日も政府は埋め立て工事を強行した。安倍晋三首相の施政方針演説からは辺野古移設の文言が消え、決まり文句の「県民に寄り添う」も以前よりは聞かない
▼キーン氏は言葉の力に悠久さを見いだした。解釈をころころと変える権力者のさまは逆。沖縄が示した民意の方が強く残り、兵どもを告発し続ける。