<金口木舌>キネマの力


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 ラベンダーという植物を知ったのはあの映画だった。学校の実験室で主人公の高校2年生の少女が香りをかいで倒れる。その香りがラベンダーだった

▼10日亡くなった大林宣彦さん監督の「時をかける少女」だ。尾道3部作の一つで、懐かしさを感じる街並みと合成画像がちりばめられた画面に引き込まれた
▼一昨年、妻の映画プロデューサー恭子さんが山路ふみ子映画功労賞を受賞した。贈呈式に同席した大林さんの言葉が忘れられない。がんで闘病中のやせた体を押して「映画は過去の歴史を変えることはできないが、未来の歴史を変えることはできる」と静かだが、りんと語った
▼さらに「過去の戦争の歴史を未来の平和の歴史に変える力は何をおいても表現。殊に市民の味方である映画にはそういう力がある」と強調した。若者に向け「それを信じて戦争なんかのない世界をつくって」と訴えた
▼映画以外でも発信を続けた。9条護憲を掲げ、「共謀罪」法成立では映画仲間と反対声明を出した。辺野古新基地建設には「美しい古里を守ることが平和への第一歩」と反対のメッセージも寄せた
▼戦争を体験した大林さんが戦後75年に完成させた「海辺の映画館―キネマの玉手箱」は沖縄戦も取り上げた。新型コロナの拡大防止で公開が延期されているが、事態収束の暁には、映画を見て監督が託したものを考えたい。