<金口木舌>引く勇気


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 超一流の選手の真剣勝負は見応え十分。やはり五輪は興奮する。選手に届けとばかりにテレビ観戦しながら声援を送る。コロナ下の五輪開催をあれほど心配していたのに、いざ始まると選手の華麗な技に不安を忘れてしまっている

▼「競技が始まり、選手の活躍が報道されれば、雰囲気は変わる」。五輪開催前、複数のメディアが政治家や関係者のこうした発言を報じた。衆院選を控える政権は支持率アップを期待しているだろうが、主権者である国民を見下していないか
▼「自らの無策や無力を覆い隠すのに選手を使うのは、『卑劣』のそしりを免れない」。共同通信の沢井俊光編集局長は本紙7月24日付の特別評論で喝破し、開催意義を問い続けるべきだと論じた
▼五輪は中盤に差し掛かったが、東京や沖縄で緊急事態宣言中も感染者数は増え続け、医療現場は逼迫(ひっぱく)している。不安のあまりSNSで選手を誹謗(ひぼう)中傷するのは論外だが、国民が不安視する感染爆発は迫っている
▼コロナ対策は既視感のあるものばかりで万策尽きた感がある。祭典と同時に国民に我慢を強いても人の流れが劇的に減ることはあり得ない
▼「国民の命と健康を守ることが最優先」と言うなら、引く勇気を持って中止して完全に人流を止めることが最善かもしれない。さもなければ適切な医療を受けられず最期を迎える人が増えるだろう。