<金口木舌>火垂るの墓


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 缶ドロップの場面で何度、涙をこぼしただろうか。終戦前後の幼いきょうだいを描いた高畑勲監督のアニメーション映画「火垂るの墓」だ

▼神奈川新聞のことしの新年号に高畑監督のインタビューが掲載された。高畑監督は「あれは反戦映画ではない」と話した。驚いたが、読み進めて納得した
▼高畑氏は戦争で攻め込まれてひどい目に遭った経験を伝えても、戦争を止める力になりにくい、とした。こう続ける。「為政者が次なる戦争を始める時は『そういう目に遭わないために戦争をするのだ』と言うに決まっている」
▼「火垂るの墓」を見たとき、幼いきょうだいに、悲しい思いをさせる戦争の悲惨さを感じた。反戦映画ではないと思わない。どんな理由であれ、戦争が起きること自体避けるべきだと感じた人は多いだろう
▼反戦を意図した作品を監督自ら「これではだめだ」と否定せざるを得ない今の日本。監督が抱く危機感と反戦への強い思い、覚悟を感じ、胸を打たれた。その高畑監督が5日、名護市辺野古の新基地をめぐる県民の闘いについて「全部支持している」と話した
▼反戦歌や反戦映画の作家らが「これで世の中は変えられない」と述べるのを目にする。だが、どう受け止め行動するかは聞いたり見たりした側にゆだねられる。そのメッセージが大きな力になることを沖縄県民は知っている。