<金口木舌>自己決定権を羅針盤に


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 新しい年が明けた。今年のえとは申(さる)。「犬猿の仲」や「猿の尻笑い」「猿に烏帽子(えぼし)」など、いいイメージの言葉は少ない。昔話「さるかに合戦」では、カニをだました上に渋柿を投げつけ殺してしまう悪役だ

▼その子孫という設定で、1956年の琉球新報元日号に山之口貘が童話「こざるとこがに」を寄せている。カニとサルが道で出くわした。渋柿を持っているのではと警戒するカニに、サルは笑いながら「もってやしないよ」と手を見せる。「ふたりは なかよしに なって(略)おやまへ さんぽに いきました」
▼対立した相手も時を経て融和できるという貘の思いが伝わる。昨年は世界中でテロが相次ぎ、憎悪の連鎖が絶えなかった。過去の敵国でも和解は可能だという理想論を童話の中だけにとどめたくはない
▼60年の元日、貘は「正月と島」という詩を発表した。〈日本みたいで/そうでもないみたいな/あめりかみたいで/そうでもないみたいな/つかみどころのない島なのだ〉
▼日米に翻弄(ほんろう)され、漂流していた米統治下の沖縄だ。あれから半世紀余、沖縄は確実に自信を付けてきた。今、地に足を着け、しっかりと針路を見定めつつあるのではないか。手にしているのは自己決定権という羅針盤だ
▼政府の「猿芝居」にだまされず「猿まね」ではない独自性を発揮して、新たな時代を切り開く希望の年にしたい。