<金口木舌>未来への一歩のために


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 厳かで神聖な場所なのに親しみが湧く。年に一度は家族や親類が和やかに集う。やんちゃな子どもにとっては格好の遊び場となる。墓は沖縄の暮らしの中に溶け込んでいる

▼街中を歩いていると、住宅と墓が隣り合わせに建つ風景に出くわすことがある。奇異に感じることはなく、むしろ調和を保っているように見える。県民生活と墓との親密な関係を表しているようだ
▼とはいえ、市街地再開発の中で墓は常に撤去の対象となってきた。6年前、土地区画整理が進む那覇市真嘉比で墓が取り壊されるのを目の当たりにした。わが家との由縁はないが、沖縄らしい風景が消えてしまい、少し残念に思えた
▼おもろまちの造成が始まったころ、銘苅古墓群の保存をめぐって議論が起きた。状態の良い古墓が残され、2007年には国指定の史跡となった。取り壊しを逃れた墓が沖縄の文化を後世に伝える遺産となった
▼中国・北京市郊外にある琉球人埋葬地は「琉球処分」の激動を伝える遺産と言える。琉球救国運動に身を投じ、客死した先人が眠る地だ。それが開発によって消えようとしている。何とか調査・保存できないか
▼墓が祖先をしのぶ場であるように、琉球人埋葬地は沖縄の命運を案じた先人の足跡をたどる場となろう。この地を守ることは、歴史との対話を通じて未来を切り開くための一歩につながる。