<金口木舌>我田引水のリーダー


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 水は人間が生きていく上で欠かせない。だから、洋の東西で同じことわざが生まれるのだろう。「我田引水」を、英語では「粉屋は皆、自分の粉ひき場に水を引く」と言うそうだ

▼自分に都合良く考える人はどこにでもいる。例えば、制限速度40キロの道路を60キロで走って捕まった人が「みんな60キロで走っているのだから標識を変えるべきだ」と言えば、お笑い草だ
▼同じような発言を一国の首相が国会の場で繰り広げた。「7割の憲法学者が自衛隊に憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきだ」として9条改定を主張した
▼不都合な現状は追認したまま、根幹のルールを変えるというのは、本末転倒だ。昨夏の安保法論議では憲法学者の批判に耳を貸さなかったのに、政治家も都合の良い理屈だけを議場に引いてくる
▼作家の阿刀田高さんは、9条と自衛力の問題を「詭(き)弁(べん)のメカニズムを学ぶうえで、これほどすばらしい例はない」と指摘する(「詭弁の話術」)。42年前の著書だが、当時すでに「警察予備隊は戦力ではない」の牽(けん)強(きょう)付会(ふかい)が進み、拡大解釈を重ねていた。今後は「政治判断で9条を多少逸脱してもよいとなるだろう」と予言した
▼今、それを通り越して「9条こそがおかしい」との屁(へ)理屈が出る始末。論理的議論はせず改憲に突っ走る政権が、この国にきな臭いものを引いてこなければいいのだが。