<金口木舌>「ゲス」と言う前に


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 響きの悪い「ゲス」という言葉をスポーツ紙やネットで見掛ける。出元の芸能界から政界へと飛び火した。ことし前半を代表する流行語になるかもしれない

▼育休取得を宣言し、注目を集めた自民党国会議員の不倫問題は世の怒りを買った。「イクメン」を標榜(ひょうぼう)した揚げ句に議員を辞職し、安倍首相は国会で陳謝する始末。紙面をにぎわす「ゲス不倫」の見出しにため息が出る
▼この騒ぎで男性の育休取得の議論が雲散霧消してしまっては残念だ。政権の支持率よりも影響大だと、ひそかに思う。「イクメン」を時代遅れの流行語にしてはならぬ。暮らしの中で根付かせたい
▼流行語ではないが「マタハラ」という言葉も耳にする。妊娠や出産に絡んだ職場内の嫌がらせである。政府は来年からマタハラ防止策を企業に義務付ける。意識改革の道のりは遠いが、ため息をついてはおれない
▼わが身を省みて、忸怩(じくじ)たる思いがする。白状するが、育休は1日も取らず、面倒なおしめの取り換えや入浴を遠ざけてきた。その仕返しだろうか、今になって口達者な娘のわがままに振り回されている
▼ゲスを漢字で書けば「下衆」「下司」となる。きつい言葉を元議員にぶつけるだけでは物事は進まない。「イクメン」や「マタハラ」をめぐる議論を放り投げることなく続けよう。それこそ子育てのような粘り強さと愛情を注ぎたい。