<金口木舌>寄り添う心、忘れず


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 身内を失い、避難生活を強いられるなどし、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になった人、風評被害で再建がままならない農家や観光業者、そして孤独死する高齢者…。東日本大震災の被災者の苦労に心が痛む

▼「電気、ガス、水道がある。家族で食事をする。ゆっくり眠る。当たり前の幸せって大切です」。言葉の主は名護市立屋部中3年の後藤祐杏(ゆうか)さん。宮城県で被災し母の出身地の名護へ移り住み、もうすぐ5年になる
▼小学4年生だったあの日は「恐怖」として今でも脳裏を離れない。雪の降る中、食料を買うために何度も行列に並んだ日々。自然と涙があふれ出たという
▼その経験を後藤さんは作文にした。昨年、国頭地区少年の主張大会で最優秀賞に輝いた。学校を訪ね話を聞いたが、自身の暮らしよりも、大半は地元に残したままの父親への気遣いだった
▼経営者として従業員の生活も支えながら奮闘する父を思い「希望を持って生きる姿に勇気をもらっている」と言葉に思いを込めた。昨年夏、4年半ぶりに帰郷した日はたっぷり甘えた、と照れ笑いした
▼後藤さんはこの春、名護市内の県立高校へ進学を予定する。友人や教師らの支えは「つらさの何倍もの元気となっている」と感謝する。被災3県から県内に避難している人は昨年12月現在で710人に上る。生きる力になる寄り添いを忘れたくない。