<金口木舌>逃げ込める扉


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 両親の暴力から逃れ、コンビニに駆け込んだこともあったという。助けて、という叫び声を多くの人が聞いたはずなのに、救えなかったことが悲しく悔しい

▼親から虐待を受けて、自殺を図った男子中学生が息を引き取った。虐待から逃れようと、生徒は児童相談所に助けを求めたが、職権による保護は見送られたという
▼過去にいじめ問題で取材した女性は小学生で父親の暴力から逃れ、母や弟妹と保護施設に入った。つらい記憶は長く残り、他人が手を上げるしぐさをするだけで、たたかれると思いビクッとおびえたという
▼中学生までいじめは続き、不登校になった。大人になった彼女は「いじめる方は、体の大きな私がちょっとしたことにびくつくのが面白かったんでしょうね」と淡々と話したが、おびえる背景にあった虐待を思うと胸が痛んだ
▼児童相談所は親が同意しなくても子どもを強制的に引き離して一時保護する職権がある。同時に親子関係を改善する役割も担う。相矛盾する役割が、一時保護をためらう傾向につながることはたびたび指摘されていた
▼しかし生徒は保護を求めていた。親から逃げたいと願うのはよほどのことだろう。顔にあざがあることも学校は確認していた。一時保護を真っ先に考えていれば、と思わずにはいられない。逃げ込める場所の扉は大人が開くしかない。