<金口木舌>未来の作家へ


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 赤い砂の星に、銀色の玉と共に送られた男。玉にあるボタンを押すと水が出るか、爆発する。さて男はどうするか

▼残酷に思える未来の極刑を描いた作家、星新一さんの短編小説「処刑」。代表作にも挙げられるこの物語に星さんならではのどんでん返しはない。だが玉や処刑の意味、男性の行動など考えさせられ、深い余韻を残す
▼星さんの名前を冠した「星新一賞」のジュニア部門で那覇市立城北中学校3年、神山帆高さんの作品が準グランプリに輝いた。受賞作「イッシントウケイ」も未来社会のある刑罰を取り上げている
▼しっかりした文章に促され読み進め途中で、思わずあっと声を上げる。テーマと結び付いたどんでん返し。表題の意味も最後に分かる仕組みで、失礼ながらこれが中学生の発想かと驚いた
▼受賞作は面白いだけでなく犯罪被害者、刑の在り方、「相手の立場に立って考える」大切さなどいろいろ考えさせられた。物語に引き付けられ読み終えた後、書かれたテーマについてさらに調べたいと思うことがある。それもフィクションの楽しみの一つだろう
▼審査員の一人は神山さんの「次の作品を読んでみたい」と評した。神山さんも「文学賞に挑戦したい」と意欲的だ。ミステリーやSFなどの分野でも県出身の作家が多く活躍するが、新たな才能の誕生を喜びたい。神山さんが紡ぐ物語が楽しみだ。