<金口木舌>一本の鉛筆


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 昭和の大スター美空ひばりさんに「一本の鉛筆」という歌がある。広島の原爆をテーマにした反戦歌だ。〈あなたに聞いてもらいたい〉で始まり、サビの部分で〈一本の鉛筆があれば戦争はいやだと私は書く〉と歌う

▼1974年の第1回広島平和音楽祭で初披露した。歌う前に「幼かった私もあの戦争の恐ろしさは忘れることはできません。いばらの道が続こうと平和のために我歌う」と語ったという
▼ヒットこそしなかったが、ひばりさんは好きな持ち歌10曲の中にこの歌を挙げている。〈一枚のザラ紙があればあなたを返してと私は書く〉〈一本の鉛筆があれば八月六日の朝と書く/一本の鉛筆があれば人間のいのちと私は書く〉と結ぶ
▼オバマ米大統領がきょう、現職大統領として初めて広島を訪問する。平和記念公園での行事に被爆者を招くが、謝罪はしない方針だ。米軍属事件でも謝罪はなかった
▼日米政府の言う「迅速対応」はポーズだけ。むしろ「同盟の絆」の方をアピールするのに躍起だ。戦争の遺物=米軍基地があるが故に奪われた尊い命や、沖縄の悲痛な訴えからは目を背けている
▼原爆資料館では各国要人が芳名録にメッセージを記す。両国のトップは1本のペンで何を書くのか。71年前の愚かな戦争を反省し、今なお脅かされ続けている「人間のいのち」について、魂の言葉をつづれるだろうか。