<金口木舌>永さんの問い


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 初めて聞いた永六輔さんの作品は「レットキス」というダンス曲だった。復帰の前年、幼稚園の教室で輪になって踊った。易しい言葉を連ねた永さんの歌詞と坂本九さんの歌声は園児の心を捉えた

▼放送作家、作詞家など多彩な顔を持った。希代のマルチタレントの軸足はラジオにあった。長年続いた番組を降板した直後の訃報だった
▼1960年代から足しげく沖縄に通った。一時期は毎月のようにトークショーを開いた。沖縄をライフワークと認じていたのだろう。根っこにあるのは反戦と民主主義の信念だ
▼66年夏の訪問の後、「ここはどこだ」という歌詞を書いた。「ここはどこだ/いまは いつだ/いくさは おわったのか」という平易な言葉に、戦後日本への疑念がにじむ。結語は「にほんは どこへいった」
▼昨年4月、毎日新聞に書いたエッセーでこの歌詞に触れ「南の島の地上戦のむごさを歌った歌だが、なんだか今作ったような気がしてくる」とつづった。日本の行く末を憂えたのだろう。「又、沖縄へ出かけよう」とも添えた
▼訃報が載った紙面はヘリパッド建設工事の動きを報じた。今選挙で参議院の改憲勢力が3分の2を超えた。「ここはどこだ」「にほんは どこへいった」という半世紀前の問いを私たちは繰り返さなけばならない。こんな沖縄、日本を永さんは望んではいなかったはずだ。