<金口木舌>天皇陛下の生前退位


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 「日本全体の人が皆で沖縄の人々の苦労している面を考えることが大事ではないか」。そう天皇陛下が語ったのは、79歳の誕生日を迎えた2012年12月だった。8年ぶりに沖縄を訪問したこの年は、オスプレイの強行配備があった

▼皇太子時代の1975年、戦後初の沖縄訪問では火炎瓶を投げられる事件も発生した。しかし「沖縄戦における県民の傷跡を深く省み、平和への願いを未来につなぎ、力を合わせて努力していきたい」というお言葉を残した
▼14年6月、那覇市若狭の対馬丸記念館を訪れた。亡くなった学童疎開の子どもたちは、陛下と同世代だった。魚雷攻撃を受けた時「護衛艦はなぜ助けなかったのか」と何度も体験者らに問い掛けたという
▼沖縄訪問時は、沖縄戦没者墓苑への献花を欠かさない。沖縄学の第一人者・外間守善氏を進講役に招き、沖縄への造詣を深めた
▼「先の戦争を十分に知り、考えを深めていくことが日本の将来にとって極めて大切なことと思います」。戦後70年の15年、国会で安全保障関連法が可決された年の誕生日の言葉である
▼参院選で改憲勢力が3分の2を占める結果となった。その直後の生前退位の意向の報道。「安倍政権の改憲の動きに対し、天皇が身を賭して抵抗の姿勢を示したのでは」。そんな推測がネット上で飛び交う。数々のお言葉から、この推測を否定することは難しい。