<金口木舌>さよならコザ琉映館


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 朝鮮戦争、ベトナム戦争時のコザ(現沖縄市)の映画館は出征前の米兵で荒れに荒れた。当時の様子を山里将人さんが著書「アンヤタサ! 沖縄・戦後の映画」に書いている

▼戦地を前に、死へのおびえがあってもおかしくない。酒に酔ってはウイスキーの空き瓶がスクリーンに投げつけられたことも。従業員が静観したのは手のつけられない怖さのせいかと思いきや、理由があった
▼終映後、従業員は館外の明かりを早々と消して、館内を明るくし米兵の忘れ物、落とし物を拾い集めた。未開封のたばこやウイスキーなど。転売で得た金は月給の何倍にもなり、糊口(ここう)をしのいだ人もいたとか
▼沖縄市のコザ十字路近くのコザ琉映館が31日に閉館する。フィルムの映写機で上映を続けて56年。この映画館にも荒れた米兵あり、銀幕のスターに胸をときめかした市民ありと多くの人々の足跡が残る
▼閉館について、もぎりの女性が言う。「フィルムの映画はもう作らないから仕方ないさ」。テレビやビデオの普及など、押し寄せた幾つもの波にもまれながらも、デジタル化の大波には抗する術(すべ)がなかった。一時代を築いた建物も老朽化が進む
▼「最後だから見ていきなさい」と促されて入った館内は、40歳以降の世代なら、時が巻き戻ったような懐かしさに包まれる。文化の明かりを灯し続けた映画館へねぎらいの言葉を贈りたくなった。