<金口木舌>「管轄移転請求」を考える


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 米軍属女性暴行殺人事件の被告が4日、東京地裁に移管を求める管轄移転請求を行った。マスコミ報道などを理由に「県民全てが予断を持っている」とし、「被害者は私だったかも」という意識を持つ県民は裁判員として「欠格」だと主張した

▼刑事訴訟法17条は「地方の民心、訴訟の状況その他の事情により裁判の公平を維持することができない虞(おそれ)があるとき」に被告は管轄移転を請求できるとしている
▼1995年の少女乱暴事件でも「反基地感情が高まっている沖縄では公正な裁判ができない」と管轄移転請求があった。公判は延期となり、傍聴者から「沖縄の人間は裁判を見られないことになってしまう」と反発の声が上がった。請求は棄却され、那覇地裁で有罪判決が下された
▼被告には管轄移転を請求する権利がある。地域から選ばれる裁判員は、有罪か否かと量刑について予断を持たずに公平な判断を求められる。裁判員制度の下で初めてとなる今回の請求は、制度に一石を投じるものだ
▼しかし、県民としては割り切れない思いがある。歴史の中で基地あるが故の被害に苦しんできた。その中でまた一人の女性の命が奪われた。その裁きが東京で行われていいのか
▼最高裁に委ねられた請求の判断は遠からず出される。「被害者は私だったかもしれない」。そういう思いで県民は見詰めている。