<金口木舌>物をして語らしめよ


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 南城市玉城にある糸数壕の入り口付近に日本軍の大砲と魚雷が展示されている。大砲は旧大里村、魚雷は旧佐敷町で見つかっており、今年3月に移設された

▼市は昨年、兵器の扱いをただす議会質疑に答え「平和学習の資料」として活用する考えを示していた。質疑した議員も平和教育の観点から保存と活用を求めた。半面、慰霊の地に兵器はそぐわないという声もある
▼ひめゆり平和祈念資料館の総合プロデューサーだった中山良彦さんは「物をして語らしめよ」と力説していた。兵器は地上戦の一端を語る。しかし、戦争犠牲者の声を代弁するかは見方が分かれよう
▼中山さんは1975年に開館した県平和祈念資料館の展示見直しに携わった。「軍人本位、皇軍顕彰」と批判された展示を「住民本位」に改めるためだ。その一つが沖縄戦証言を大きな紙に印刷して展示する「証言展示」だった
▼資料館の入り口では鉄かぶとや軍靴など日米両軍の遺留品の残骸を積み上げ、来館者を迎えた。地上戦が引き起こした圧倒的な破壊と犠牲を表現したという。「住民本位」の展示を意図してのことだ
▼先日亡くなった中山さんは、住民犠牲の実相を明確に伝えることを戦争展示のフィロソフィー(哲学)に据えた。兵器の轟音(ごうおん)によって糸数壕で息絶えた住民や傷病兵の声をかき消してはならない。哲学が求められている。