<金口木舌>沖縄を届けたい


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 南米4カ国の旗が夜空に舞っている。沖縄県章旗や青年団の幟(のぼり)もある。世界のウチナーンチュ大会の最後を飾る華々しい宴を見ながら、8年前に出会った県系人家族のことを思った

▼「外間」という沖縄の姓を受け継ぐ県系ブラジル人4世の青年と叔母家族が、茨城県南西部の八千代町に住んでいた。1908年、笠戸丸に乗ってブラジルに渡った第1次移住者の末裔(まつえい)である
▼21歳の青年の名はアレシャンドレという。出稼ぎでカンポグランデから日本に渡ったのは2001年。その7年後、苦境に直面する。体調を崩し、組立工の仕事を辞めた。たちまち困窮に陥った
▼「ブラジルに帰りたいな。でもお金がない。働いていないから」と嘆いていた。父祖の地沖縄を訪れたことはなかった。ただ一言、祖母が教えてくれたしまくとぅばを知っていた。「ガチマヤー。いっぱい食べる人ね」
▼両親から沖縄のことを聞く機会はなかった。ソーキ汁や沖縄そばの味を知っていただろうか。三線の音やエイサー太鼓の響きに心を震わせる瞬間はあっただろうか。8年を経て、宴の場から彼に問い掛けてみる
▼世界のウチナーンチュの日制定宣言に「我々ウチナーンチュは、未来への希望を持っている」とある。この信念をアレシャンドレさんのように日本の片隅で懸命に生きる県系人と共有したい。熱き肝心(ちむぐくる)の沖縄を届けたい。