<金口木舌>憲法とサザエさん


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 日曜の夕刻、退屈しのぎに「サザエさん」を見る。登場する3世代家族の中で男たちはちょっと頼りがいがない。それでも父や夫の役目を担う愛すべき存在だ

▼そんな一家が改憲論議に巻き込まれた。家庭における個人の尊厳と男女平等を定めた憲法24条の改正を主張する日本会議の関連団体が作成したDVDにサザエさんが出てくる。3日付毎日新聞が報じた
▼理想の家族としてサザエさん一家をたたえながら、現憲法は「祖先を敬い、親を大切にし、子孫の繁栄を祈る伝統的な家族観」に触れていないと批判した。個人の尊厳の徹底は家族解体に行き着くとの論も引いた
▼福岡の夕刊紙でサザエさんの連載が始まったのは1946年4月。4コマは時代の空気を吸い込む。連載初期、進駐軍の兵士が街を闊歩(かっぽ)し、サザエは買い出しのため闇市に出掛ける。日本国憲法の公布はこの年11月
▼サザエさん一家は伝統的家族だろうか。雑誌社で働き始めたサザエは男女同権を唱えた。波平はフネに叱られながら、婿のマスオと楽しく暮らす。古い家制度や家父長の重責とは無縁のようだ。時には家族のために意地も見せる
▼父子・母子家庭、同性婚と家族の姿は多様だが、個人の尊厳と平等は普遍的な価値を持つ。波平やマスオも憲法24条の恩恵に預かっていよう。あなたや私も同様だ。無自覚、無関心ではおれませんぞ。