<金口木舌>戦争を知らない首相


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 海部俊樹元首相は14歳で敗戦を迎えた。少年飛行兵学校入隊が決まり、特攻も覚悟していた。「複雑な気持ちだったが、ホッと救われた」。閣僚を辞めていた岸信介元首相は48歳。病床で天皇のラジオ放送を聞き「魂が抜け出たようになった」

▼歴史家の保阪正康さんが歴代首相の敗戦体験をまとめている(「文芸春秋」2014年9月号)。兵学校教官だった竹下登氏は、帰郷する汽車から街の荒廃を見て政治家になろうと決意した。少尉だった宇野宗佑氏はシベリアに抑留された
▼保阪さんは「政治家にとって『戦争体験』は政策決定のときの重要なポイント」と分析する。海部氏によると、1990年の湾岸戦争で自衛隊派遣が議論された際、自民党内の戦争体験者は否定的で、「若い世代は『断固行くべし』と主張した」
▼福田康夫氏は「今の日本人には戦争をする資格はない。70年前の戦争もいまだ十分に後始末が終わっていない」と言い切る
▼安倍晋三首相の在職日数が戦後4位になった。この間、秘密保護法や安保法を数の力で強行成立させ、武器輸出三原則も撤廃した。「戦争ができる国」が近づく。戦争の実相を知らないが故の危うさが極まっている
▼首相の座を延命する一方で、国民の命を縮めるような政策を進められるのは、まっぴらごめんだ。太平洋戦争開戦から75年。この国に開戦の日は二度と要らない。