<金口木舌>水没しても「着水」


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 肥満=「ぽっちゃり」、老けている=「大人っぽい」。「物は言いよう」の代表例を尋ねたインターネット調査でこんな言葉が上位に入った。ストレートに言うと角が立つ。相手に配慮した婉(えん)曲(きょく)表現は日本人の美徳とされる

▼しかし、「墜落」を「不時着」や「着水」と言い換えるのはどうだろう。名護市安部で起きたオスプレイの事故を日米両政府や一部メディアはこう呼んでいる。機体がばらばらに散乱している写真を見れば事実は明らかだ
▼満潮で機体が水没する「着水」ってあるのだろうか。交通事故を起こした運転手が、車が大破しても「衝突ではない」と言い張っているのと同じ珍妙さだ
▼この政権は言葉の偽装に長(た)けている。福島第1原発汚染水は「コントロールされている」と言い放ち、安保法の議論では「戦争」を「事態」に言い換えた。「武器輸出」は「防衛装備移転」に、最近では南スーダンの「戦闘」を「衝突」と矮小(わいしょう)化した
▼戦中に大本営が「敗走」を「転進」、「全滅」を「玉砕」にすり替えた体質が残っている。かつて自己判断せず権力に追随したメディアも、今は違うと言い切れるだろうか
▼童話「裸の王様」では、大人たちは疑いつつも真実を言えなかった。「王様は裸だ」と指摘できた子どものように、当局の言いなりにならず素直な目で真実を見極める。報道の当然の役割を忘れないでいたい。