<金口木舌>庶民の矜持


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 ネーネーズ「黄金の花」の作詞者で、昨年11月に他界した岡本おさみさんに「義務」という1971年の作品がある。デモに出掛ける夫と「いかせたくない」という妻の会話を描く

▼夫は「庶民」だと名乗る。どこの党にも関係ない、あくせく働く庶民だけど「今日だけは人間らしくいたい」と願い、デモの列に加わろうとする
▼「黒いカバン」は72年の作品。手にしたかばんの中身を疑う警察官から「見せてもらいたい」と迫られ、もめ事になる。「おまえは誰だ」と詰問する警察官に「人間ですよ」と切り返す。いずれもフォーク歌手泉谷しげるさんが歌った
▼この1年、高江や辺野古に集まった人々も庶民だ。国家という巨大な力と向き合い、幾度も機動隊員に排除され、唇をかんだはずだ。ネット上に流布する「金をもらっているんだろう」という言葉に心を痛めただろう
▼それでもやんばる路を通う。自然を、暮らしを守りたい。強権に抗(あらが)い民主主義を守りたい。思いはそれぞれだ。悪罵やレッテル貼りに耐えるのは苦しいが、この島に守るべきものがある庶民、人間の矜持(きょうじ)は手放すまい
▼今年も押し詰まった。憤りと悲しみばかりが思い出される。今はまだ「年忘れ」とは言えない。やんばるで捕らわれたまま年を越す人たちもいる。つらい1年を心に刻み、思いを分かち合いながら新たな年に希望を見つけたい。