<金口木舌>2つの「顔」


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 飲み会が多い年末年始は、1年で最も1万円札の福沢諭吉の顔に接する時期である。最高額紙幣のせいか、福沢がありがたく見える

▼歴史をひもとくと、福沢には二つの「顔」がある。近代日本の民主化を啓発した人物として評価される一方で、日本の西洋化を唱えた言論内容が「アジア蔑視」と批判されている
▼今の時代を生きる私たちが「偉人」に対する評価を活発に議論することは有意義である。この国の「顔」とも言える1万円札の人物なら、なおさらである。大切なのは今、「負」に見える部分をいかに克服するかだ
▼日本政府は慰安婦少女像設置を追認した韓国政府に対し、駐韓大使の一時帰国という強硬策に出た。韓国国内で日韓合意に強い反発があることや、慰安婦被害者の「無念」にも思いをはせる姿勢がほしい
▼転じて沖縄のオスプレイ墜落問題。日本政府は事故原因を検証しないまま訓練再開を認めた。「米国の言いなり」そのものだ。安倍晋三首相のハワイ真珠湾訪問には中国などから「戦争で深い傷を負ったアジア隣国無視」との批判もある。首相の対照的な対応は「現代版脱亜入欧」に映る
▼その犠牲を強いられてきた沖縄からは首相の異なる「顔」がよく見える。だが東京ではそこを突く議論が乏しい。東京ではあまり流通していない「平和希求紙幣」2千円札の守礼門が恋しくなる。