<金口木舌>金網の中の恐怖


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 方向音痴に付ける薬はないものかと常々思う。地図を手にしながら街中で道に迷う。先日、イオンモール沖縄ライカムで迷った。案内板の丁寧な説明すら頭に入らないのだから重症である

▼ようやく出口にたどり着き、ここは米軍のゴルフ場だったなと思い出す。ゴルフ場の真ん中に放り出されたら、方向感覚を失ってしまう。目印が分からないのだから
▼大城立裕さんの「カクテル・パーティー」に、主人公の「私」が米軍基地内の住宅地で道に迷った体験を振り返る場面がある。米軍住宅は似た形ばかり。「道をみうしなったとき、ふと恐怖がきた」という心境は理解できる
▼あるいは「沖縄の中に基地があるのではなく、基地の中に沖縄がある」という例え話も浮かぶ。沖縄自体が巨大な金網に覆われ、先行きが見えない時代だった。米統治下の「私」の恐怖は沖縄全体の恐怖でもあった
▼地形を詳細に描いた作家に大岡昇平さんがいる。大作「レイテ戦記」でも戦場の地形描写を随所に織り交ぜた。「死者の証言は多面的である。レイテ島の土はその声を聞こうとする者には聞こえる声で、語り続けているのである」という結語は「健忘症の日米国民」への警鐘であった
▼沖縄は今も目に見えぬ金網に覆われている。「私」の恐怖は過去のものではない。道に迷わぬよう土の声に耳を傾け、地形を読み解きたい。