<金口木舌>ラジオドキュメンタリー


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 朝はラジオをつける習慣が10年以上前から続いている。家事の手を止めることなく、ニュースや天気予報など生活情報が自然に耳に入ってくるのがいい

▼ラジオは通常リスナーのリクエストに応え曲を流す、投稿者のエピソードを紹介することが多い。そのような中、2008年に放送された「死刑執行」のドキュメント番組は異色だった
▼1955年に大阪拘置所が刑務官教育の一環で制作した音源が元だ。死刑囚本人の声、家族との会話、最期の瞬間。耳から入ってくる音声に頼るしかない状況は、目で見る以上に胸に迫った
▼先日、ラジオの別のルポ番組を聞く機会があり「死刑執行」を思い出した。そのルポは元TBSディレクターの吉永春子さんが61年に制作した「ゆがんだ青春-全学連闘士のその後」。吉永さんはラジオとテレビで多くのドキュメンタリーを手掛け、昨年11月に85歳で他界した
▼全学連幹部が右翼から資金を得ていたとする内容は、今聞いてもはらはらした。メディアは娯楽性が求められがちだが、受け手の心に何かしらの問題意識の爪痕を残すのも大事な仕事だろう
▼俳優のメリル・ストリープさんが、スピーチでトランプ大統領を批判したことは記憶に新しい。彼女は批判だけでなくジャーナリストへの支援を訴えていた。「信念を持った記者が必要」との主張に、吉永さんの取材力に思いをはせた。