<金口木舌>分断を強いているのは誰か


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 差別を身近に感じ、闘ってきた人は社会の空気に敏感である。「沖縄の人々への人種的差別を復活させてはいけない」。長年、沖縄の問題に取り組んできた東京沖縄県人会前会長の渡久山長輝さん(82)は、大阪府警機動隊員の「土人」発言をしきりに嘆いていた

▼渡久山さんは元教師。「閣僚が差別発言を容認するようでは、『差別はいけない』と諭す教師や大人は示しがつかない。沖縄差別を容認する空気が広がるのでは」と憂いていた
▼残念ながら渡久山さんの不安は的中した。今年に入り、嫌沖をあおるデマが“公共の場”で堂々と流れ始めた。官民一体の様相を帯びているだけに、事態はより深刻である
▼東京MXテレビは、米軍基地建設に反対する市民を攻撃する内容の番組を放送した。公安調査庁は、報告書で沖縄と中国の学術交流を「日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいる」と批判した
▼情報の根拠となる事実への取材や調査はイロハのイ。だが両者に共通するのは事実をきちんと調べず、一方的に決めつけ、ゆがんだ情報を流す手法である。中国の学術交流を現場で取材したが、公安調査庁の報告内容は偏見に満ちている
▼新基地建設を巡る沖縄の現状を見ると、分断を生む差別的施策を強行しているのは、むしろ日本政府の方だ。それを嫌沖や偏見が補強する。その空気に危機を感じる。