<金口木舌>「國華」の味わい


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 1枚の写真がある。シボレーのトラックの前で記念撮影する人々。旗には「泡盛 國華」と「清酒 平和」の文字が見える

▼国指定重要文化財で現在、修復工事が進む名護市の津嘉山酒造所前で1953年に撮影された写真だ。17日から名護博物館で始まった特別展で展示している。津嘉山酒造所では「國華」だけでなく、「平和」という酒も造られていた
▼従業員の話によると、清酒ではなく合成酒だったようだ。どのような酒だったのか造り方は残っていない。1枚の写真に名前が残るだけだ。「國華」という名称は国頭郡の華になるようにと名付けられた。「平和」に込められた思いは何だったのだろう
▼残念ながら「平和」は残らなかったが、津嘉山酒造所は当時の姿のままよみがえる。修復工事で柱は朽ちた部分を継ぎ足すが、使っていたものを生かす。建築資材は一つ一つ全て記録し、元の場所に戻す地道で繊細な作業が続く
▼主屋(しゅおく)は建築面積330・49平方メートルで、沖縄本島に現存する近代の木造建築物としては最大級の規模だ。津嘉山酒屋保存の会の岸本林会長は「元の形に修復するから6年という歳月がかかる」と説明する
▼貯蔵できるのは大手酒造の2日分の出荷量に及ばない。ラベル貼りまで全て従業員3人の手作業だ。「國華」と同様、知れば知るほど味わい深い津嘉山酒造所。今年9月の完成が待ち遠しい。