<金口木舌>静かな夜を


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 ラジオから弦楽器の響きに乗せて「遠い地平線が消えて」の語りが聞こえると午前0時。ナレーターの城達也さんの声にじっと耳を傾けた記憶はおありだろうか

▼夜間飛行を楽しむ趣向の人気番組。かつてのオープニングの名調子は「深々とした夜の闇に心を休める時」と続いた。闇や暗黒を想起する「夜」は静寂や休息のイメージも呼び起こす
▼本来の静かな夜を返せと、米軍嘉手納基地周辺の住民約2万2千人が国などを相手に訴えた第3次嘉手納爆音訴訟の判決は、またもや米軍機の飛行差し止めを門前払いとした
▼判決前、難聴被害を訴える60代の原告男性と沖縄市内のスナックで一緒になった。同年配のママさんを見ながら「『好き』ってささやかれても聞こえないよ」と冗談を言って笑ったが、すぐに寂しそうな顔になった
▼補聴器の精度は向上したが、家族や友人ら近しい人の感情の機微を捉えきれないことがある。判決後、男性は「聞こえない悔しさは若い人に引き継ぎたくない」と語り、差し止めを求め続ける決意を見せた
▼弁護団の一人は、憲法理念の実現を愚直に訴える原告に学ぶことが多いと話す。賠償の一部拡大、健康被害の認定などを「前進」とする前向きな意見もある。原告と弁護団の結束した取り組みが世論をさらに動かし、頑迷な司法に風穴を開けることにつながるはずだ。