<金口木舌>分断を超えて


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 時代設定は1950年代、米軍の民間地強制収容に対する土地闘争。伊江島住民の指導者阿波根昌鴻氏は言う。「じっと黙って(闘争を)見ているウチナーンチュが一番怖い」

▼先月上演された文化座創立75周年記念の演劇「命どぅ宝」の一場面だ。米軍基地を巡るウチナーンチュ同士の対立と分断。劇は、政治家の瀬長亀次郎氏の導きで島ぐるみ闘争に発展するさまを描く
▼佐々木愛劇団代表は沖縄の人々がどう分断を乗り越えようとしてきたかを見詰める。劇団創設者の父が戦後、中国から引き揚げた際、日本の民衆の姿に「侵略戦争を反省して粛々と過ごしていると思ったら、アメリカナイズにがくぜんとした」と語ったと言う
▼文化座は日本の底辺と戦争に光を当ててきた。沖縄関連の公演は13回を数える。2010年にはアイヌ兵、沖縄兵、北海道兵が沖縄戦の戦場で出会う物語を描いた
▼大学の研究に使われたアイヌ民族の遺骨返還を巡り、身元不明分の国立施設集約にアイヌ民族同士で賛否がある。コタンの会の清水裕二共同代表は「政府は今もアイヌを植民地政策、分断策の渦中に陥れている」と語り、新基地建設に揺れる沖縄と重ねた
▼絶えず分断の危機に直面する沖縄。先人の足跡と、国内外の似た境遇の人々の闘いに克服へのヒントがある。「自己決定権」の追求はその鍵の一つといえる。