<金口木舌>足元の歴史から知るVX


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 北朝鮮の金正男(キムジョンナム)氏殺害事件が連日報道されている。マレーシア当局によると、致死量をはるかに超える猛毒の神経剤VXが死因という。顔に塗り付けられてからわずか15~20分後に死亡した

▼マレーシア当局はVXを毒物と特定したことで、北朝鮮が国家として関与した疑いを強めた。北朝鮮の“容疑”が注目されがちだが、毒ガスの脅威は、実は日本も無関係ではない
▼「顔は黒く、目は赤く、肺はただれ、工場の人たちは咳が止まらず、血を吐いていた」。先月下旬に神奈川県で開かれた展示会で太平洋戦争に動員された学徒兵の証言が目に留まった。戦時中、日本全国に毒ガス工場は主な所だけで147カ所あり、学徒や朝鮮人を含む大勢の人が働かされた
▼神奈川では戦後、米軍が工場跡を再利用し、VXなどを持ち込んだ経緯もある。2002年と03年には跡地の開発工事中に作業員が地中にあった旧日本軍の毒ガス瓶を割り、重軽傷を負った
▼沖縄では1969年、米軍基地でVXが漏れ、米兵ら25人が病院搬送された。その報道を機に貯蔵が発覚。即時撤去を強く求める住民運動が起き、2年2カ月後に撤去された
▼VXは人類が作った化学物質の中で最も毒性の強い物質といわれる。足元の歴史を知れば、VXが今も使用されていることは人ごとには思えない。1日も早い根絶に向けて英知を絞る時だ。