<金口木舌>「千代田丸事件」の教訓


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 10日の唐突な南スーダンからの自衛隊撤収発表は、森友学園理事長の会見のさなかだった。森友疑惑から目をそらせると同時に、政権への打撃をより小さくしようとタイミングを選んだのだろうか

▼今回、自衛隊の海外活動の危険性が印象付けられた。自衛隊の活動が広がれば、関わる民間の関係者も増える。自衛隊配備が強化される沖縄では、国民保護法に基づく民間の協力が現実味を帯びる
▼61年前の1956年3月、「全電通千代田丸事件」が起きた。米軍の日韓間海底線が故障し、日本電信電話公社は海底線敷設船千代田丸に出航を命じる。この時期、韓国側から銃撃を受ける危険性があった
▼労働組合・全電通は乗組員の安全確保を公社と交渉したがまとまらず、組合員に出航拒否を指示した。翌日、交渉がまとまり、無事業務を終えた。しかし公社は、拒否の指示は違法な争議行為だったとして労組支部役員3人を解雇した
▼解雇無効を求めた裁判は12年以上に及び、最高裁で労組側が勝訴した。軍事上の危険が伴う場合は業務命令に拘束されないという判断だった
▼政府が「有事」とすれば、運輸、交通、医療など多くの民間部門が協力させられる。千代田丸事件のように危険な場所への動員は許されない。そもそも、沖縄の歴史体験が求めているのは、「有事」を想定する必要のない政治・外交なのだ。