<金口木舌>多様性に寛容な共生社会を


この記事を書いた人 琉球新報社

 韓国の民族衣装チマ・チョゴリを着た若い女性は涙で声を詰まらせた。街頭でのヘイトスピーチを撮った映像から発する醜悪な言葉に耐えかねてのことだ。映像を見た各国大使も言葉を失っていた

▼2014年8月、ジュネーブの国連人種差別撤廃委員会で在日韓国人らが自身の体験を訴えた。委員からは日本政府に法規制を求める声が相次いだ。政府は法整備に乗り出した
▼ヘイトスピーチ対策法は施行から1年が過ぎた。今月3日、現状と課題を考えるために東京都内で催されたシンポジウムに足を運んだ。そこで紹介された、法務省による「外国人住民調査」の結果に驚いた
▼調査は日本が史上初めて、人種差別の被害実態を包括的に調べたものだ。外国人を理由に就職を断られた人は25%、賃貸物件の入居拒否は実に約4割にも上る。ヘイトスピーチに限らない差別の根強い実態が浮かぶ
▼シンポでは、対策法はヘイトスピーチに限られ、禁止事項がないことや、保護対象が「本邦外出身者」に限定されていることなどが問題点として指摘された。現行法では、沖縄やアイヌの人々が差別の標的にされても対策が及ばない
▼国際人権法に合致した人種差別撤廃基本法の制定や人権教育の徹底などが課題だ。多様性に寛容な共生社会こそ、民主主義社会の成熟や発展につながる。一人一人がまずはその原点に立つ時だ。