<金口木舌>記者の仕事の一つに政治家の発言などを書き起こす作業がある。そ


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 記者の仕事の一つに政治家の発言などを書き起こす作業がある。その場でパソコンに打ち込むこともあれば、音源を聞き直して正確に文字化する場合もある

▼使用頻度の高い単語をあらかじめ登録しておけば、全て打ち込まなくても頭文字を入力するだけで特定の言葉が出てくる。政治部記者時代、「H」と「I」で始まる言葉を登録していた
▼「はいさい、ぐすーよー、ちゅーうがなびら」「イデオロギーよりアイデンティティー」。翁長雄志知事は至る所でこの二つを多用していた。共通の言語と歴史を共有するウチナーンチュの心を捉える言葉だった
▼沖縄は特有の文化や価値観などの共有性が高い「ハイコンテクスト文化」。論理的に伝えようとしなくても何となく通じてしまう。それに慣れてしまい、議論を避けて「なーしむさ」で終わってしまうこともある
▼政治家にとって言葉は命であり、武器でもある。日米安保を支持する保守政治家でありながら、沖縄がなぜ辺野古新基地を拒否するのか翁長知事は説明し続けた。沖縄を切り捨てて主権を回復し、広大な米軍基地を押し付けてきた本土の「無意識の差別」を気付かせようとした
▼社会学者マックス・ウェーバーは「その国の政府は、その国に生きる人の鏡である」と指摘した。翁長知事は沖縄に生きる人の鏡だった。「しむさ」と諦めるのはまだ早い。