<金口木舌>漱石枕流


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 中国西晋の孫子荊は、隠居生活の境遇で「石を枕に眠り川の流れで漱(くちすす)ぐ」と言うべきところを、「石」と「川の流れ」を言い間違える。周囲から指摘されても「石で歯を磨き、耳を洗うため川に頭を浸して寝る」と言い張った

▼「晋書(しんじょ)」孫楚伝にある。「漱石枕流(そうせきちんりゅう)」の故事だ。間違いを訂正せずへりくつで言い逃れる様を表す。夏目漱石の雅号の由来としても有名だ
▼この人は孫を見習ったのだろうか。菅義偉官房長官だ。米軍普天間飛行場の全面返還を日米が合意したきっかけについて「事故」があったと国会で答弁した。誤りを指摘され「事件もあったが、その以前に事故があったことも事実ではないか」と言い繕った
▼1995年の少女乱暴事件をきっかけに、米軍基地の整理縮小を求める県民世論がかつてないほど高まった。世論に押される形で日米特別行動委員会(SACO)が設置された。その結果が普天間返還合意だ
▼「事故」と言うならそれは何か。聞いたが答えなかった。辺野古新基地を進める理由に掲げる普天間の危険性を強調するため、意図的に「事故」と言ったか
▼防衛省のホームページは「SACO設置などの経緯」の項目で「平成7年に起きた不幸な事件」と少女乱暴事件に言及している。ここで「事故」の文言はない。明白な誤りさえ認めないのがこの政権の体質なら事態は一層深刻だ。