<金口木舌>頭越しの帰属論


この記事を書いた人 琉球新報社

 日ロ首脳会談で北方4島のうち歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島を「引き渡す」と明記した日ソ共同宣言を基礎として交渉することで合意した。故郷を思う元島民の声が報じられる一方、4島とアイヌ民族の関わりにはなかなか焦点が当たらない

▼江戸幕府が影響力を強める近世以前、北方4島や千島列島にはアイヌ民族が暮らしていた。北海道と同様だ。近代以降、日ロ両国はアイヌ民族の意見を聞くことなく国境線を引いた
▼国連は2007年に先住民族権利宣言を採択し、日本も賛成した。先住民族の土地や資源の権利をうたい、立法措置を促す。日本政府はアイヌ民族を先住民族と認めたが、アイヌ文化振興法は土地の権利に触れていない
▼「北方4島にアイヌの自治区を作ってほしい。そこでサケを捕って暮らしたい」と語ったのは旭川アイヌ協議会の川村シンリツ・エオリパック・アイヌ会長だ。昨年2月の集会で土地をアイヌに返すよう求めた
▼阿部浩己明治学院大教授は本紙の取材に「日本は植民地支配の歴史的不正義を認め、是正しなければならない。ところが沖縄とアイヌについて植民地主義の実態を解明する作業がなされていない」と指摘した
▼沖縄は現在も広大な土地が米軍に占有されたままだ。先住民族の権利をないがしろにし、頭越しに交わされる帰属論の根っこに沖縄と共通する構造が横たわっている。