<金口木舌>夢育む砦


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 「心の中に平和の砦(とりで)を」は、有名な国連教育科学文化機関(ユネスコ)憲章の一節。「戦争は人の心の中で生まれる」と無知と偏見が争いを生むと説く。相互理解、知的連帯の深化が平和を実現すると訴えた

▼グスクの城壁のような石積みは、夢を育む子どもたちの砦、物語を愛する親子のための城を思わせる。沖縄市のくすぬち平和文化館だ。活動を主宰した真栄城栄子さんが亡くなった
▼幼稚園教諭として絵本の魅力に出合う。読み聞かせや紙芝居の公演、文化館につながる地域文庫の運営で、児童文化の普及に先駆的な役割を果たした。素地にあったのは「平和をつくる」という信念だ
▼開館3年目の2000年、取材で初めて訪ねた。紙芝居に多くの子どもがくぎ付けになる一方で、ベンチや窓辺で好きな本を広げる子がいた。本との関係性を尊重していることが分かった
▼夫で館長の玄徳さんは告別式で、栄子さんの原動力が「子どもたちの目の輝き」だったと振り返った。子どもたちの目を輝かせるのは豊かな文化に触れさせることであり、それが平和につながるという考えを追究した
▼その思想は、くすぬち(クスノキ)が根を張るように浸透した。今後も実践が続く。栄子さんは子どもの言葉を大人は受け止められるか、とも問うた。木陰を広げる大樹に育つ、くすぬちは大人のあるべき姿を表しているようでもある。