<金口木舌>ののしる権力、横たわる遺体


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 豪雨で県内が混乱した26日、船の一部欠航で伊江島の人々が焦った。島の戦争を描いた舞台「木の上の軍隊」(故井上ひさしさん原案)が県内で初上演された日だ。来場予定の島民も多く、最終便の再開で何とか間に合った

▼物語は、敗戦を知らずに2年間、木の上に隠れた故佐次田秀順さんらの体験を基にしている。出演者とこまつ座の関係者は前日に島を訪れ、佐次田さんが過ごしたニーバンガズィマールで祈った
▼伊江小学校は佐次田さんの劇に1992年から取り組む。同校に寄った井上さんの3女、麻矢さんは「父は児童らの劇を耳にし、これだと作品を書いたかもしれない」と当時の資料をめくった
▼劇中、上官役は捕虜となり生き恥をさらしたくないと投降を拒む。「戦争の終わらせ方」にこだわり、沖縄を捨て石とした国そのものだ。現国会で政権与党が「愚か者、恥を知れ」と、異を唱える野党をののしった姿と重なる
▼島出身の新兵役は「島が変わった」と嘆いた。人を殺し、友の遺体が横たわる。戦争は景色だけでなく人の心を変えた。嘆きは「苦しみは終わっていない」という沖縄の叫びだ
▼生前、佐次田さんは伊江小に手紙を送った。「日本全国の生徒の皆さんが戦争に反対し、末代まで平和で一生懸命勉強できる世の中にして下さい」。井上さんも同じ思いだろう。それは来場した人々にしっかり届いた。