<金口木舌>台湾との結び付き


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 国立科学博物館の実験チームが丸木舟で台湾から与那国島に到着した。約3万年前の人々がどのように海を越えたかを探る実験航海だ。航行距離は200キロを超え、45時間をかけて到着した

▼日本列島には朝鮮半島やサハリンから渡ってきた人々とは別に、大陸と地続きだった台湾から渡来した人々がいたと考えられている。しかしどんな舟や航海技術を使ったかは分かっていない
▼今回の実験は当時は存在しなかった地図や時計を持たず、星や太陽の位置で方角を判断して航海した。これまでに草と竹の舟で失敗し、今回が「最後の挑戦」だったという
▼晴れた日には与那国島から台湾の山々が見える。石垣島からの距離は127キロ。台湾からは111キロと近い。黒潮の影響で航海に難しさを伴うものの、沖縄戦直後は密貿易で島が栄えるなど関係は深い
▼昨年の台湾東部地震の際には与那国町の人々が義援金を送った。町は震源に近い花蓮市と1982年に姉妹都市提携を結んでいる。過去には交流促進のため駐在員を花蓮市に派遣したこともあり、現在も結び付きは強い
▼丸木舟の実験は交流の歴史を大きくさかのぼらせる試みだ。与那国島は近年、陸上自衛隊の配備に関連して報じられることが多い。だが人や経済のつながりも安全保障の方策の一つだ。実験を機に、国境を超えた結び付きがさらに深まるといい。