<金口木舌>表現の自由と芸術活動


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 表現の自由を阻む芽は身近にある。2年前の県芸術文化祭で、美術部門審査委員長の総評の原稿から米軍ヘリ炎上事故に関する記述を県が削った。文化祭が開かれたのは東村高江で発生した米軍ヘリの炎上事故の約1カ月後だ

▼審査委員長は屋良朝彦さん。「平和が芸術活動の大前提と伝えたかった」と記述の復活を求めたが、かなわなかった。県は疑義が寄せられる可能性があり「リスクを避けたい」と伝えた。県の対応に疑問が残った
▼「表現の自由」が脅かされる事例は他にもあった。天皇の画像をコラージュした美術家の大浦信行さんの作品だ。2009年に県立博物館・美術館が「総合的、教育的配慮」を理由に展示から外した。同じ作品は、開幕中の芸術祭「あいちトリエンナーレ」でも展示が中止された
▼愛知県などでつくる主催者が「表現の不自由展・その後」の中止を決めた。大浦さんの作品や「平和の少女像」などが含まれる。主催者は多数の抗議が寄せられ、安全な運営が危ぶまれると説明する
▼公権力は抗議や脅迫から表現活動を守るべき立場にある。一定程度の批判は当初から予想されていた。不当な圧力に屈して白旗を揚げたように映る。残念だ
▼多様な意見を交わせる社会だからこそ、平和や人権も保障される。自由な議論ができる社会をつくるのは私たちだ。他人任せにするわけにはいかない。