<金口木舌>刃物が生み出すものは


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 ナイフを握り、軽やかな手つきで竹や木を削る。あっという間に竹とんぼや動物たちが出来上がった。那覇市の上運天賢盛さん(87)は県内各地で子どもたちにおもちゃ作りを教えている

▼3年前に自宅工房で取材に応じ、工具用刃物を扱えない世代が増えていると語っていた。「けがを恐れては何も学べないし、触れることで刃物は危険だと学ぶ。相手の痛みを理解できる人間に成長できるはずだ」
▼75年前、旧南洋で暮らす1万2千人とみられる県出身者が戦禍で命を奪われた。その慰霊祭が8月27日にサイパン、28日にテニアンであった。サイパン生まれの上運天さんは南洋群島帰還者会の会長でもある
▼おもちゃ作りの原点はサイパンでの暮らしだとも話していた。貧困から抜け出そうと多くの県人が海外に渡った時代。上運天さんは現地住民と触れ合い、おもちゃ作りを教わった
▼戦争の影が濃くなるに伴い、当時の日本本土と同じくサイパンでも戦闘機のおもちゃがはやった。金属は兵器製造を優先に使用され、おもちゃの材料に使うことを禁止された。木や竹、紙などが主流になった
▼上運天さんは親族4人を失った。会として最後となる今回の慰霊祭で「戦争に聖戦はない」と追悼した。手にした道具は誰かを傷つけるものではない。おもちゃを作り、笑顔を生み出す。南洋での教訓は海を超え、次代に託された。