<金口木舌>大江さんのつぶやきと県民大会

 「僕はなんのために沖縄へ行くのか、という僕自身の内部の声と、きみはなんのために沖縄へ来るのか、という沖縄現地からの拒絶の声にひき裂かれつつ」

▼ノーベル文学賞作家の大江健三郎さん(77)が、いわゆる文士講演のため復帰前の沖縄を初訪問したのは30歳の時。同行の有吉佐和子さんから「琉球絣を買うつもりだったらしい」ドルを譲り受け、沖縄に残った
▼近著の「定義集」で紹介している。見知らぬ土地に一人残ったのは「自分の無知を自覚し落ち込んで」しまったからだ。それから何度も沖縄を訪れ、1970年に出版したルポが「沖縄ノート」だった
▼冒頭はその本で作者が何度かつぶやくせりふ。そうした原体験に始まり、復帰後も沖縄と関わり続けてきた大江さんが確信したのは「県民の直接行動にこそ力がある」ことだという
▼県民大会を前に本紙に思いを語ったが、多くの県民も同感するのではないか。米兵の卑劣な事件に抗議した集会や教科書検定意見の撤回を求めた大会、そして今回。立場を超えて結集したエネルギーは確実に外部にも伝わり、何かを生み出す
▼大会代表団はきょう関係要路に要請活動を行う。権力の姿勢を変えるのは一筋縄ではいかないし、色よい回答は正直期待できないが、落胆することもない。沖縄の声とそれに呼応する本土の声が重なり、展望を切り開くことを願う。