<金口木舌>好きならばこそ対価を


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 イタリア語で直訳すると「酔っぱらい」という名の店がある。その名にたがわず1杯売りのワインをグラスになみなみとついでくれ、料理もうまい。いつも幸せそうな顔の客でにぎわっている

▼好きな店なら対価を支払うのにためらうことはない。廃れずに長く続いてほしいとも思う。そのためには経営側の努力もあるだろうが、客の側にも一緒に育てるという気持ちが要る
▼しかし世の中には「無料」の一言に飛び付く人も少なからずいる。例えば人気の漫画やアニメを無断で流通させるネット上のサイト。これでは作者を守れないと、国や出版社が「海賊版撲滅」に取り組むことを発表した(7月31日付27面)
▼日本生まれの著作物を海外に売り込む「クールジャパン戦略」の一環という。適切な収益を上げるための取り組みだが、経済的な利益以外に文化的な側面も見過ごせない
▼もし作者に利益が入らなければ、創作活動は停滞するだろう。愛読する作家、作品の続きが読めなくなるのは、制作する側の不利益だけではない。読者である私たちの不利益でもある
▼世界に誇る文化となった日本の漫画やアニメは作品を支持し、対価を払ってきた読者が育てたといってもいい。しかし作品名と「無料」をキーワードにネット検索すれば、驚くほどの海賊版があふれかえる。少しの金を惜しんで文化を失う愚は避けたい。