<金口木舌>信念を貫く

 ドラマ「半沢直樹」の原作者・池井戸潤さんの作品にのめり込んでいる。その中でも中小企業の経営者を主人公にした一連の作品は、次の展開が気になって読み出すと止まらない

▼作品に出てくる中小企業は技術力で大企業を上回るのが誇りだ。資金繰りなどで追い詰められても、社員の信頼をよりどころに経営者は信念を貫く。ラストの逆転劇で読後の爽快感はこの上ない
▼痛快な物語の世界に比べると、どうも現実社会は息苦しい。中でも陰惨なのが埼玉県で盲導犬が刺された事件。盲導犬は必要なときしかほえないよう訓練されているため、痛みをじっと我慢したという
▼盲導犬が声を上げられないことを刺した人物が知っていたなら、やりきれない。弱いものを狙い撃つ、暴力がはびこる社会は健全とは言い難い。そんな社会を子どもたちに残したくない
▼声を上げられない生き物、上げた声が届かない人々は他にもいる。沖縄なら辺野古の工事に中止を求める県民世論だろう。沖縄戦から戦後も続く痛みを県民は長い間こらえてきた。我慢の限界に達した叫びは届くのか、それとも海のかなたに消えるのか
▼ドラマのようにどんでん返しが待っていれば胸もすっとするが、現実はそう簡単にはいかない。だが小説が描く真実に学べることはある。それは「信念を貫くこと」だ。届くまで声を上げるしかない。