<社説>自治条例廃止を否決 自治の推進を貫くべきだ


社会
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 「自治体の憲法」とも呼ばれる条例を全国で初めて廃止に追い込む結論は避けられた。だが民主主義や地方自治を追求する観点から、ここまでの経緯を検証し教訓にすべきだ。

 石垣市議会は、与党側が提案した市自治基本条例廃止の提案を賛成10人、反対11人の賛成少数で否決した。
 与党の一部が反対に回った。段階的な見直しを経ない廃止や、新たな条例提案のめどが立っていないことが理由だ。野党だけでなく与党内からも批判があるほど、廃止ありきのむちゃな提案だった。
 提案した自民会派の議員らは「社会情勢の変化や、二元代表制の円滑な運用には必ずしも有用な条例ではない」と理由を説明した。市政運営への市民参加などを柱にする自治基本条例を全否定するのは、市民を置き去りにしたおごりに映る。
 自治基本条例は2010年に県内で初めて石垣市で施行された。市政運営の最高規範と位置付けられている。条例が掲げている情報共有、市民参加、協働、多様性尊重などの方向性が間違っているとでも言うのか。
 条例の見直しに際し「(市は)審議会を設置し、諮問しなければならない」と規定されている。今回、そのような手続きは経ていない。
 提案者は「主語は『市』だ。市議会は当たらない」としているが、条例の逐条解説は「市」について「議会を含めた基礎的な自治体を意味する」として市議会を含むとの見解を示している。
 見直しでさえ審議会への諮問が必要なのだから、廃止する場合はさらに慎重な議論が必要だ。
 市の担当課は市議会で、市当局が条例廃止を検討する場合について「庁内の議論と合わせて、審議会における議論、市民参画などを経て廃止が必要だとの結論となった場合に、廃止条例を議会に提出することになる」と説明した。
 今回の廃止案は、3月に市議会に設置された市自治基本条例に関する調査特別委員会がわずか5回の審議で決めた。市民の声を聞いて1年以上かけて策定した経緯からすると、あまりにも乱暴な手続きだ。
 背景には、市平得大俣への陸上自衛隊配備計画を巡る住民投票が、この条例を根拠に直接請求されたことがあるとみられている。条例には、有権者の4分の1以上の連署で市長に住民投票を義務付ける文言がある。
 石垣市住民投票を求める会は、住民投票条例が市議会で否決されたため、市を相手に訴訟を起こした。廃止の提案に、住民投票実施のハードルを上げる狙いがあるとすれば、民主主義を後退させる重大な問題だ。
 市議会は今回の提案に至った過程を検証し、市民不在を改め、市民参画型の自治を推進する姿勢を貫くべきだ。全国が注目している。