<社説>公文書の専門家養成 隠蔽体質の是正が肝要だ


社会
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 日本が民主主義の国かどうかが問われている。先進国とは程遠い危機的な状況だ。

 政府は公文書管理の専門職「アーキビスト」の公的な資格制度に基づく認証の付与を2021年から始める。行政文書を適切に管理することで国民の知る権利を保障し、行政を監視する態勢を整える役割が期待される。
 アーキビストは欧米では社会的地位が確立し専門教育も行われているが、日本では公的資格さえない。公文書管理態勢がお粗末であり、今回の導入は遅すぎる感がある。
 と言うのも、公文書管理の模範となるべき政府が、公文書を改ざんし、行政をゆがめ、国民を裏切るという異常な事態が相次いでいるからだ。公文書の適正管理を義務付けた公文書管理法が11年に施行されたにもかかわらず、ずさんな公文書管理が横行している。これに国立公文書館の専門家らが危機感を抱き、専門家の養成に乗り出した形だ。
 公文書管理法は第1条で行政機関が作成する文書について「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置付け、将来の国民への説明責任を果たすよう求めている。「消えた年金記録」問題を重く見た08年当時の福田康夫首相が主導して法整備に着手した。
 だが公文書管理は改善されるどころが、安倍政権下では悪化の一途をたどっている。
 首相主催の「桜を見る会」を巡っては、政権が公表したくない招待者名簿を破棄した。名簿のバックアップデータが存在し復元が可能であったにもかかわらず、政府は「職員が取り出せない扱い」を理由に開示請求の対象である公文書には当たらないとして開示を拒んだ。
 学校法人「森友学園」への国有地売却を巡っては、財務省理財局長が主導して、学園と交流のあった安倍昭恵首相夫人の名前や「特例的な内容」といった表現を決裁文書から不正に削除した。
 イラクに派遣された陸上自衛隊が現地から送っていた日報が陸自の研究本部に存在していたにもかかわらず、防衛相への報告が遅れ、約1年にわたって隠されていた。厚生労働省でも、働き方改革を巡る国会論議の過程で「なくなった」としていた労働時間などの調査データ原票が同省地下で見つかっている。
 こうした事態から透けて見えるのは、政権に都合が悪いことを政府ぐるみで隠す体質である。
 公文書の改ざんや隠蔽(いんぺい)は、政府への監視や検証をできなくするため、民主主義の破壊につながる。
 まずは、改ざんや隠蔽を繰り返す政府の体質を根本的に改めることが肝要だ。いくら専門家を養成しても、その体質を是正しなければ、適切な公文書管理を目指す制度の実効性は乏しい。制度を生かすには、管理態勢をチェックする独立した機関を設けることも検討した方がいい。