<社説>基地から有害物質 人権意識が問われている


社会
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 米軍基地から流出した有害物質が環境を汚染している実態が改めて鮮明になった。県民の健康が脅かされている現状を放置することは許されない。基地内にある危険な薬剤を直ちに撤去するよう日米両国政府に強く求めたい。

 発がん性が指摘される有機フッ素化合物PFOSを含む泡消火剤が10日に米軍普天間飛行場から流出したことを受け、琉球新報社は11~13日に付近の河川など5地点から水を採取し、京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)に分析を依頼した。
 その結果、宜野湾市の宇地泊川で採取したサンプルから、PFOS・PFOAが1リットル当たり合計247・2ナノグラム検出された。地下水汚染を判断する米国の暫定指標値(合計40ナノグラム)の6倍に当たる。他の地点からも多量の有機フッ素化合物が確認された。
 同じ宇地泊川でも、地下水路を通って基地内の水が合流する地点より上流では30・2ナノグラムと比較的数値が低い。普天間飛行場が汚染源であることは明白だ。
 消火剤や洗浄剤などに使われるPFOSは国内では原則として使用・製造が禁止されている。県企業局が2016年1月に水質調査の結果を公表したことで汚染が表面化した。米空軍嘉手納基地内を通る大工廻川や周辺の比謝川などで高濃度に検出された。
 だが、米軍は汚染源とみられる嘉手納基地内の水質調査を拒否し続けている。日米地位協定に基づき施設の排他的管理権を持っているからだ。PFOSの使用実態も明らかにしてこなかった。普天間飛行場では昨年12月にも泡消火剤を漏出させている。
 米軍はPFOSを含まない消火剤への早期の交換に向けた作業を進めている―というのがこの間の政府の説明だった。今回、普天間飛行場で大量に漏出した泡消火剤は22万7100リットルに上る。実際には、切り替えは全く進んでいないのではないか。
 有害物質を含む泡消火剤は米軍基地内にどれくらいの量が備蓄されているのか。火災時には使用されるのか。実態を調べて国民の前に明らかにすべきだ。そのことは、基地を提供している政府として当然の務めである。
 米軍は今回の流出事故でも、原因、経緯といった基本的な情報さえ明らかにしていない。環境に影響を及ぼす事故なので、国、県、宜野湾市の立ち入り調査を認めたものの、土壌の採取は拒んだ。県民を愚弄(ぐろう)する態度だ。
 問題の解決を阻んでいる日米地位協定の見直しは急務だが、住民の健康被害を防ぐのは人道的見地から当然だ。協定以前の問題と言えよう。
 政府はその点を米側に強く主張し、二度と漏出が起きないように抜本的な対策を取らせる必要がある。嘉手納基地内での調査も要求すべきだ。
 これ以上の無為無策は許されない。日米両政府の人権意識が問われている。