<社説>憲法施行73年 政府への強権付与危うい


社会
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 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために出された緊急事態宣言で、私たちは現在、日本国憲法で保障された移動の自由や教育を受けることなどさまざまな権利が抑制されている。いまだに治療法が確立されていない感染症を防ぐためには「公共の福祉」の観点から致し方ない面があるだろう。

 しかし、感染拡大を「国難」と強調する安倍政権は有事の際に私権を制限できるようにする緊急事態条項の新設に意欲をにじませる。
 感染症対策に国を挙げて取り組まねばならないこの時期に憲法改正論議を進めようとする安倍政権の姿勢は危機に便乗するものだ。個人の自由や権利が不当に侵害されることはあってはならない。私権を制限できる強権を政府に与えるのは危険だ。
 新型コロナの感染防止のため、政府は7都府県に緊急事態宣言を出し、その後全国に拡大させた。休校措置のほか店舗には休業や営業短縮、国民に外出の自粛などを求め、多くの人が自主的に取り組んでいる。
 だが、感染防止を図るためにさらに政府の権限を強めようとする動きが顕在化した。安倍晋三首相は衆院議院運営委員会で憲法改正による緊急事態条項の創設を問われ、改正論議への波及に期待感を示した。自民党は憲法審査会の開催を提案した。
 コロナ禍で憲法改正に対する賛否も分かれた。共同通信の世論調査では、憲法を改正して大規模災害時に内閣の権限を強め、個人の権利を制限できる緊急事態条項を新設する案に賛成が51%、反対が47%だった。ただし安倍政権下での改憲は、反対が58%、賛成が40%だ。調査は学校の一斉休校や緊急事態宣言を発出した時期で、不安感から、強いリーダーシップを求める流れになったのかもしれない。
 しかし、国権が最優先され、個人の権利が著しく抑えられた過去があることを忘れてはならない。1938年に制定された国家総動員法だ。「私権」を制限する法制度の下で国家統制が敷かれ、国民の徴用などを国家が自由にできるようになった。行き着いた先は戦争だ。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を基調とする憲法は、その反省の上に作られた。
 世界で新型コロナが猛威を振るう中で、ドイツのメルケル首相は渡航や移動の自由が第2次世界大戦などの「苦難の末に勝ち取られた」権利だとした上で、私権の制限は「絶対的な必要性がなければ正当化し得ない」と、あくまで命を救うための一時的対応だと明言している。
 先の見えない状況に置かれると、強い権力に従いたいという心理状態になることもあるだろう。こんな時だからこそ自由や平等、人権の価値を再確認する必要がある。
 沖縄戦の教訓を踏まえ、公権力を制限する平和憲法を守り続けたい。